ilyaのノート

いつかどこかでだれかのために。

(資料)1976年日本の筋肉注射

▽1976年(昭和51年)に公表された日本小児科学会筋拘縮症委員会による「注射に関する提言 (I)(II)」を、津山直一「大腿四頭筋拘縮症その他合併症」(『注射の功罪──大腿四頭筋拘縮症をめぐって』東京大学出版会, 1976年 所収)の付録*1から復刻する。

 

(A) 「注射に関する提言(1)」(1976/02/19) 日本小児科学会筋拘縮症委員会

注射に関する提言(I)

 近年わが国で社会問題化している筋拘縮症(大腿四頭筋三角筋・臀筋など)の成因について、その大部分は筋肉注射が原因であることが明らかになった。しかしいまだに注射が安易に行なわれている場合がある。
 そこで本委員会は、筋拘縮症の今後の対策として、各方面における実態調査をもとにして下記事項を小児の医療にたずさわる各位に提言するものである。

      記

1 注射は親の要求によって行なうものではないこと
 注射は医師の医学的判断のもとに行うべきである。親の要求に応じて安易に行なうことは医療の本質に反するものである。

2 経口投与で十分ならば注射すべきでないこと
 注射が優れているという誤った考え方を是正しなければならない。

3 いわゆる“カゼ症候群”に対して注射は極力さけること
 カゼ症候群の多くはウイルスによる感染症であるから本質的な治療法はない、しかるに筋肉注射の大部分はカゼ症候群に集中し、解熱剤・抗ヒスタミン剤・抗生剤が群を抜いている。本症に対する注射は極力さけられたい。

4 抗生剤と他剤の混注は行なわないこと
 抗生剤の筋肉注射、ことに他剤との混注は筋拘縮症発生の危険が大である。クロランフェニコールについては既にその使用基準が厳しく制限されているが、その他の抗生剤についても一層の注意を喚起したい。

5 大量皮下注射は避けること
 今日なお大量皮下注射が輸液療法として安易に行なわれている。大量輸液は静脈内注射によって行なわれるべきである。とくに大量皮下注射にビタミン剤・抗生剤などを加えることは、広範囲な筋障害を発生させることがあるので注意されたい。

 昭和51年〔1976年〕2月19日 日本小児科学会筋拘縮症委員会

  

(B) 「注射に関する提言(2)」(1976/07/01) 日本小児科学会筋拘縮症委員会

注射に関する提言(II)

 昭和48年〔1973年〕、大腿四頭筋拘縮症が社会問題化されて以来、大腿部筋注の危険性についての認識は高まったが、その反面、肩・上腕部、臀部などの筋肉注射は安全であると安易に受けとられている傾向がある。さらに最近では三角筋拘縮症、臀筋拘縮症などの発生も相次いでいる。
 本委員会は、筋拘縮症の発生防止のため、筋肉注射に関し、さらに以下の提言を行なうものである。

     記

1 筋肉注射に安全な部位はない
 大腿部以外の筋注でも、筋拘縮症の発生がある。したがって、筋肉注射に安全な部位は存在しない。

2 筋肉注射に安全な年令はない
 筋拘縮症の発生は、新生児、乳・幼児の筋注に多いと思われているが、年長児、成人の筋注でも発生がみられている。したがって筋肉注射に安全な年令はない。

3 筋肉注射の適応は通常の場合においては極めて少ない
 筋肉注射は、それ以外では薬効が得られない場合や、緊急の場合などに限られるものであり、適応はおのずから厳選されなければならない。

4 筋肉注射を必要とするときは原則として保護者または本人の納得をえてから行なう
 筋肉注射を行なうときは、その必要性と副作用などを、保護者または本人に十分に説明する必要がある。

 昭和51年〔1976年〕7月1日 日本小児科学会筋拘縮症委員会

 

 

▽なお、津山直一「大腿四頭筋拘縮症その他合併症」の付録は、次のリード文(p. 64) を持ち、続けて (1)「日本整形外科学会より提出の大腿四頭筋拘縮症に関する要望書」(1975/04/09)、(2)「注射に関する提言(I)」 日本小児科学会筋拘縮症委員会(1976/02/19)(※前掲)、(3)「注射に関する提言(II)」 日本小児科学会筋拘縮症委(1976/07/01)(※前掲)、(4)「大腿四頭筋拘縮症手術に関する提言(I)」(1976/08/28)、以上文献4点を収載する。 ※原文(リード文)中の註記 (1)~(4) は、それぞれ文献番号に対応している。

 日本整形外科学会では本性のような注射による合併症の存在を知りつつ、他学会や社会にこれを知らせ予防させる努力を怠った事実を反省し、遅ればせながら学会として公式に各方面に次の如き要望書を提出した(1)。
 また日本小児科学会筋拘縮症委員会の注射に関する提言(I)(II)に同意し学会員に広く周知せしめることとした(2)(3)。
 また大腿四頭筋拘縮症手術に関する日本整形外科学会筋拘縮症委員会の提言(I)を公式見解として学会員に広く周知せしめることとした(4)。

 

 

(当時の状況がうかがえる関連論文・論説)

 

(2000年代以降の状況を示す諸資料)

 

▽関連論文・記事について、I氏より教示をいただきました。記して感謝します。

 

*1:津山直一「大腿四頭筋拘縮症その他合併症」は、津山直一・小林 登・砂原茂一・高橋晄正・赤石 英 共著『注射の功罪──大腿四頭筋拘縮症をめぐって』東京大学出版会(UP選書), 1976年 収録。当該付録は pp. 61-64。目次が次のwebページにある(各章担当執筆者名を欠く)。 →▼津山直一・小林 登・砂原 茂一・高橋晄正・赤石 英『注射の功罪――大腿四頭筋拘縮症をめぐって』(1976)|arsvi.com http://www.arsvi.com/b1900/7612tn.htm

*2:「日本消化器外科学会雑誌」Vol.12 No.5(1979年5月)収載。CiNiiの「抄録」欄に次の記載がある。「抄録/ 昭和53年〔1978年〕11月24日付で日本小児科学会より日本消化器外科学会長宛に日本消化器外科学会関係者に対し, 下記事項の周知方依頼があり, 理事会の決定によりお知らせいたします.」。

*3:日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会による「小児に対するワクチンの筋肉内接種について」の初版は、2015年5月18日付で公表されている。2015年版PDFは Internet Archiveで内容を確認できる。 →▼PDF:「小児に対するワクチンの筋肉内接種について」(2015年5月18日)|公益社団法人 日本小児科学会 https://web.archive.org/web/20150616090301/https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20150519_kinnnikunaisesshu.pdf

*4:第57回日本小児保健学会でのイブニングセミナー(2010年9月16日)の講演録。「小児保健研究」Vol.70 No.2 掲載。配布元ページ。 →▼公益社団法人 日本小児保健協会|小児保健協会オンラインジャーナル(隔月刊)|小児保健研究 70巻2号 (2011年) https://www.jschild.med-all.net/Archive/issueDetail?magazine_code=cx3child&year=2011&volume=70&number=2 なお、第57回日本小児保健学会(2010年)のプログラムは次のページで提供されている。 →▼学術集会 アーカイブ | 公益社団法人 日本小児保健協会 https://www.jschild.or.jp/academic/

*5:「医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス (PMDRS)」Vol.43 No.2(2012年)掲載。 →▼PMRJ - 一般財団法人 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団:出版物: 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス https://www.pmrj.jp/publications/pub01_09.html

*6:「海外社会保障研究」192号の「特集:予防接種の国際比較」中の論文。PDF配布元ページ。 →▼海外社会保障研究 目次:192号(2015年) http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kaigai/192.html

*7:配布元ページ。 →▼社会医学フィールド実習│障害福祉の各テーマ - 滋賀医科大学 社会医学講座 衛生学(旧予防医学)部門 http://www.shiga-med.ac.jp/~hqpreve/kyouiku/socmed_fw/syougai/index.htm#2019

*8:2020年11月1日開催「第22回薬害根絶フォーラム」(全国薬害被害者団体連絡協議会)の「第1部 各団体からの薬害被害実態報告(特集:HPVワクチン薬害)」の報告で用いられた資料。日本小児科学会筋拘縮症委員会「注射に関する提言 (I)(II)」(1976年) の概要を掲載している。配布元ページ。 →▼全国薬害被害者団体連絡協議会 http://hkr.o.oo7.jp/yakugai/ なお、当日の講演動画もYouTube配信されている。