ilyaのノート

いつかどこかでだれかのために。

論理とそれが“意味してしまう”ことについて。2010年口蹄疫をめぐって。〔2010.5〕

〔※以下の検討は、素人の手でweb上の資料のみを用いてなされたものです。内容に根本的な誤りが含まれている可能性があります。 誤りをご指摘いただければ幸いです。〕


▽自己の言葉の含意への想像力。間接化することで麻痺するもの。主張の字義的な意味ではなく、振る舞いとして意味してしまう、示してしまうことへの想像力。はしたない、という感覚。
▽問題を、国内問題ではなく国際問題(外交問題)として捉え直す時、そこに生じる素人論者の優越感。それは私のうちにも巣くっているだろう。そうした心理の醜悪さ。
▽だが同時に。K氏、MK氏が私のふるまいについて批判したように、「せっかく調べたのにどうしてまとめないの?」「こうした構図に初期段階で気づいていたのだから、それを公開して、判断のための情報として提供すべきだったのではないか?」。それは正しさを含んでいる。
▽「伝えないのは逃げだ」「知ったのであれば、発信するコストを負担をすべきだ」と言える。この批判は間違ってはいないはずだ。だが、それは本当に適正な批判だろうか? 「知識人の責任」と称されるもの(誰が「知識人」なのか?)。民主主義社会の原理。「市民」の責任。
▽なぜ私はこうした議論をまとめること、「わかりやすく」整理して提示することに延々と抵抗感を拭えなかったのか?

▽窮極の一点は、この議論の構図の本質が、遠方にいる口蹄疫発生地の人びとに対する「国益のために殺せ!埋めろ!」という主張であること。誰かが言わねばならないことだとして、それを渦中にある人びとに対してみだりに口にする権利が私にあるのだろうか。せめて自分が畜産業に関わっているなら、そう口にする苦みを自分の重荷として担えるのだろうか。(そして実際には、日本国政府が検討した上で対処しているのは間違いないし、web上でも「分かっている人びと」は最初からきちんと考慮していた。)

▽また。こうした議論は、素人論者のある種の「優越感」を刺激する。自分は「わかっている」、「広い視野で」問題を理解している、と思いこませる。錯覚した素人論者が、その主張の含意を考えもせず、振り回すだろうことは目に見えている。それを分かっていながら、この非常時にそんな輩の増殖に加担すべきなのか。それとも、一人でも多く本当に「分かっている人」を増やすことを有益と考えて語るべきなのか。

▽また。ここで主張される構図は、実のところまだまだ検討さるべき情報、裏付けを多く必要としている。すなわち、本気で主張するには未だ確実な根拠を欠いている。にもかかわらず「構図」として提出されるとき、それは巧妙に隠蔽されてしまう。「真実」であるかのように扱われる。まるで当然の前提であるかのように理解され、消費されてしまう。それは知的頽廃を呼ぶ。


口蹄疫。あきらめ。けっきょく自力で調べがつかないこと。OIEコード〔陸生動物衛生規約〕&FAO " Preparation of Foot-and-Mouth Disease-", Chap.6 と、日本法&現在進行中の対口蹄疫対策の対応関係。
▽【1】OIEコード8.5.45 の「in-contact susceptible animals」、FAO「potentially infected livestock」の定義と、日本法における「疑似患畜」の関係。
▽【2】OIE 8.5.7 の「containment zone」、FAO「Infected zone/Surveillance zone」と、日本の「移動制限区域/搬出制限区域」の関係。(元来対称的ではないが。そもそも宮崎のサーベイランスが現在どうなってるか分からない…)
▽日本法がOIE&FAOの要求をカバーできるよう設定されているだろうことは、日本の畜産業保護の前提条件からほぼ推測できる。が、具体的にどう対応させているのか? また現在、進行中の対策は、それを実現できているのか?
▽そのあたりが分かれば、種牛6頭特例の疑問も解けると思ったのだけれど(特例の時点では、政治的に交渉可能だって判断があったはず。理屈上は)…ここでお手上げかなあ。


▽――というわけで、君のブツブツつぶやいてることはイミフメー、そもそも君がぐだぐだtweetし続けてる「動機」がわからないんだYO!とみっちり叱られてきました。うう…。他の人はともかく、わかってもらえないのは悲しすぎるのでこの際まとめてしまう。


▼どうして口蹄疫について調べ始めたか? 最初は知的好奇心。なんか大騒ぎになってるから。実際のところ、どうなの?と。で、少し調べてみたら、口蹄疫がそもそも相当にやばい、とんでもない病気だってわかった。発生してしまった宮崎県の畜産業は悲惨な状態になるだろう、と。
▽なのにwebを見回してみれば、“赤松口蹄疫”だの「10年前の自民党は偉かった」だの「初動の遅れが致命的」だの…。おまえら今、目の前に世界トップレベルと見なされる「疫病」が発生してる、宮崎の畜産農家の目の前にカタストロフの口が開いた、その状況を眼前にそれを政治ショーのおもちゃにする気なのかと。
▽ふざけんなてめえら。


▼結論。 私たち素人がこの問題を考えるにあたって前提すべき根本的な構図はこうである; 日本国は、OIEコード〔国際獣疫事務局の定める陸生動物衛生規約〕8.5.2条が定める「ワクチン非接種口蹄疫清浄国」公式認定を把持し続けるべきか否か?
▽その前提の上で、今まさに目の前で進行している口蹄疫禍について現時点で1ページだけ読むとしたら、このエントリー。→ 
▼海外悪性伝染病というものがあって|ウメログ〔梅川和実http://kazumiu.at.webry.info/201005/article_12.html
▽もう少し口蹄疫とその地獄を知る気があるなら、アカウント@_Cow_Boy 氏のtweet。2000年の口蹄疫に酪農技術員として対した方。ただしtweetし始めの頃だけでなく、必ず、最後のtweetまで読むこと。全134tweet。十分可能。 http://twitter.com/_Cow_Boy 〔追記: アカウントは消滅している。Togetterが残っている。→ ▼10年前の口蹄疫流行経験者の言葉 - Togetter http://togetter.com/li/22413
▽学術的な裏付けなしには不安…という真っ当な気分があるなら次のPDFファイル。他の論文と照らし合わせても、一般人はこれだけ知っていれば十分、という分かりやすくツボを押さえた概説。全11p。文献表がないのが惜しい。→ 
▼[PDF]佐伯隆清「口蹄疫とは」,1997 http://jp-spf-swine.org/All_about_SWINE/AAS/11/11_2-12.pdf
▽多少ハードでも本気で理解したいなら次の2論文。→ 
▼村上洋介「総説 口蹄疫ウイルスと口蹄疫の病性について」,1997 http://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/sousetsu1997.html 〔→http://www.naro.affrc.go.jp/niah/fmd/explanation/018087.html
▼津田知幸「わが国に発生した口蹄疫の特徴と防疫の問題点」,2000 http://www.sat.affrc.go.jp/special_pgm/FMD_Japan_review.htm 〔→[PDF] http://milky.geocities.jp/satousi1/41kyusyu.pdf


▼最初に結論として示した問題の「構図」に、この二論文も、@_Cow_Boy氏も等しく言及している。
▽ex. 津田知幸論文冒頭; 「【口蹄疫清浄国】は清浄国以外からの家畜および畜産物の輸入を制限できるため,わが国畜産業もまた口蹄疫清浄国として多くの利益を享受してきた。」
▽ex. 村上洋介論文末尾; 口蹄疫が侵入,蔓延して防疫に手間取るような最悪の事態を想定すれば,国内畜産業は多大の直接的な経済被害を受けるばかりでなく,現在〔輸入を〕制限されている地域の畜産物との内外価格差を考慮すると,わが国の畜産業全体が極めて厳しい立場におかれる恐れがある。【ワクチンを使用しない完全な口蹄疫清浄国】の立場を保つことが,国内畜産業の安定の前提になっている」
▽ex. @_Cow_Boy; 「では、なぜ清浄国にならなければならないのか 【口蹄疫清浄国】かどうかで国際競争力がまるで違いますhttp://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/country.jpg 口蹄疫の清浄国は、北米、オーストラリア、ヨーロッパの一部など限られた国です。【清浄国】は、発生国からの畜産物の輸入を拒否できます事実上の非関税障壁です。 口蹄疫汚染国になれば、この障壁がなくなります。発生国の安い畜産物が入ってくると、日本の畜産業界には大きなダメージとなるでしょう。もちろん、安い方がいいという意見や、そういう保護主義が駄目なのだという考え方もあるでしょう。 しかし、私は食料の安全保証は目先のお金には換えられないと考えています。将来にわたり、安全な食料を国民に提供するために、口蹄疫の清浄国であり続けなければならないと思います。」


日本国政府が何かを考えているとすれば、このOIEによる【ワクチンを使用していない完全な口蹄疫清浄国】認定を出来うる限り早く回復すること。またおそらく、現在設置されている「搬出制限地域」をOIEコード8.5.7 の「containment zone(口蹄疫封じ込め地域)」として認めさせること。
▽どうにか目の前の口蹄疫を終熄させた後(これは絶対に実現せねばならない)、「封じ込め地帯」の設定が有効と認められれば、その外側の地域は比較的容易に【ワクチン非接種口蹄疫清浄国】に復帰できる。cf. OIEコードArticle 8.5.7
▽もし「封じ込め地帯」が無効とされれば、単純に考えると日本全国が「口蹄疫汚染地域」と見なされる。その場合、日本全域にわたって Article 8.5.8(&8.5.40-46)の条件を満たさなければ口蹄疫清浄国には復帰できない。それは非常な困難を伴う。


▽種牛に関する特例が問題になるのもこの点。
▽まず、「封じ込め地帯」の成立要件の一つに「移動の停止」がある(cf. OIE 8.5.7-1.b)。最初の種牛6頭を避難させる特例は、これに違反する。6頭は口蹄疫発生農場から10km圏の「移動制限区域」におり、そこから移動させようとしたことはこの要件を満たすことを困難にする。
▽次いでOIEコード8.5.45 に明確に規定されるように、日本国は全ての感染症例及び「in-contact susceptible animals(接触した感受性動物)」、またワクチン接種動物を全頭殺処分しなければ、清浄国資格を回復できない。
▽「疑似患畜」="in-contact susceptible animals" であると考えるなら(そしておそらく、そうである)、問題が崖っぷちにあることが分かる。
▽すなわち。種牛を避難させることも、生き残らせることも、日本政府は可能である。だが、それを実行した場合、おそらく日本は口蹄疫「清浄国」資格を回復できない。日本が非清浄国となった場合、海外の大多数を占める非清浄国からの畜産物輸入を防疫を理由に禁止する国際的に正当化された権利を、失う。
▽そうなれば前掲したように、結果、日本の畜産業は(内外価格差によって)壊滅的な打撃を受ける。

▽非清浄国(汚染国)認定されたからと言って、私たち一般国民が死ぬわけではない。消費者にとってはむしろ、はっきり言えばより「安い肉」が食べられるようになる。下手すれば美味しくもあるだろう。安全性は(国内産に比べたら)微妙かもしれないが、幸い口蹄疫という病気は、人にはほぼ影響しない。
▽結局。所詮オブザーバーでしかない我々が考えるべきこと、宮崎県におらず、身勝手な冷たい野次馬だからこそ考えられることがあるとすればこの一点、日本のグランドデザインしかない。私たちは私たちの食べる畜産関係物(肉、ミルク、飼料etc)をいかなる条件下で入手するのをベターと考えるか。


▽獣医学も防疫も知らない。口蹄疫なんて初めて知った。家畜保健衛生所が現場で何をしているかを知らず、動衛研と農水省が何をしてるのかを知らず、獣医師が日夜現場で何をしているのかを知らず、そして宮崎の畜産農家の悲惨を本当の意味で実感することもできない私たち。そんな私たちに考えることがあるとすれば。
口蹄疫を政治利用し、またそれに乗せられる輩はいったい何を考えているのか? ろくに知りもしない、しかも“自分が知らないことを知らない”状態で法律の不備やらOIEコードやら持ち出しての政府批判。それは自由だ。だが、お前らは口蹄疫が発生し、搬出禁止区域内に置かれた人びとの犠牲を、この先にどう生かしたいのか?
▽「種牛を殺すのはおかしい」というなら、種牛を生かした上で【ワクチン非接種口蹄疫清浄国】認定を回復する方法を、考えるべきだ。それが不可能なら、日本は清浄国資格を放棄し、保護貿易を解除し、日本畜産業をグローバルな自由競争下に置くべきだ、と主張していることになる。その覚悟があるのか?


▽あるいは、君たちは《政治》に何を求めているのか? 政治には「パフォーマンス(演技)」が必要なのか、それとも適切な「決断(針路決定)」こそが必要なのか。どちらか一方を選べと言われたら、君はどちらを選択するのか。
赤松広隆氏以下農水省トップがその自己演出能力において最低なのは間違いない。少なくとも、ものには言いよう、というものがある。彼らの振る舞いは、それを分かっていないとしか思えない。だが。だが、彼らの下している決断は、少なくとも間違ってはいない。
▽対する東国原英夫宮崎県知事はどうか。彼は日本の一行政区の首長として適切なパフォーマンスと、(宮崎県にとっては)ほぼ正しい、少なくとも間違ってはいないであろう決断を下している。だが、彼の主張を認めた場合、宮崎県下ではなく日本国の畜産業全体に何が起きるか。その路線転換を覚悟した上で、知事と宮崎県の畜産農家の要望を首肯しているのか?


▽進行している事態は、OIEコードが最も危険とみなす家畜伝染病の発生であり、一歩踏み誤って感染が外部に広がれば従来の日本外交と日本の食糧政策に大転換を迫りかねない状況である。そこで何を考え、何が言えるのか。
▽その非常時に、専門科学者の言は聞かず、まるで口蹄疫が政治でどうこうできる問題であるかのように騙り、粛々とした防疫活動と途切れなき資金・人員投入が必要とされるこの時期に、赤松不信任決議? ふざけるな。そんな政治的空白を作って何がしたいのか。宮崎県の被害を拡大したいのか。
農水省のトップが誤った決断を下すなら、躊躇なくその首を差し替えるべきだ。そうでないなら、今、この時期に、統治上の空白を作りさらにこの期に及んで知識不足、経験不足の新大臣を起用するのはギャンブルでしかない。そんな暇があったら、宮崎の農家へ回す補償金をどこから捻出するかを赤松農相に考えさせろ。(それとも大臣などいなくとも口蹄疫防遏に支障はないのか?)


▽専門家、科学者の言。彼らは少なくとも我々よりも口蹄疫を知っている。 ▼明石博臣:東大大学院農学生命科学研究科教授 http://b.hatena.ne.jp/entry/seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20100525-01-0901.html ▼遠藤秀紀東大総合研究博物館教授 http://b.hatena.ne.jp/entry/www.ustream.tv/recorded/7199833
▽日本が口蹄疫終熄後の清浄国認定の再取得にいかに留意しているか。政府が口蹄疫発生確認と同時にOIEに提出を開始した報告書を参照せよ。日本語訳(岡本嘉六訳)がある。 http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Report%20to%20OIE.htm (なお、この「報告書の提出」自体もまた「封じ込め地帯」の成立要件である。cf. OIEコード8.5.7.)
日本国政府は2010年4月20日口蹄疫発生後、即座に提出したOIE宛て「緊急報告Immediate notification」以来、「疫学的注釈Epidemiology」「適用した措置Control measures」の記述で、宮崎県下にOIEコードの求める要件を満たした「封じ込め地帯containment zone」が成立していることを主張している。 http://www.oie.int/wahis/public.php?page=single_report&pop=1&reportid=9155
▽「初動の失敗」云々、10年前の政権は良かった云々といった駄弁は、2000年口蹄疫について、次のweblogエントリーに引用されている程度の知識は最低限おさえた上で述べよ。 ▼「口蹄疫」についてのノート(その三):2000年の口蹄疫について|ilyaの日記 http://d.hatena.ne.jp/ilya/20100524/1274677034


▽眠い。大切なのは、ここまでtweetしたようなこと(また、脇道ゆえに言及しなかった議論)は多少webを検索しただけで、じゅうぶんアタリがつく、たどり着ける、ということだ。なぜその手間をかけないのか? その程度の手間もかけず、専門外の事態について知っているつもりになれるのはなぜか?


▽私について具体的な経路を言えば、山内一也、村上洋介、津田知幸 三氏の著述の発見でほぼ構図のアタリが付いた。その後2000年口蹄疫の検討を経て、weblog「ひむかのハマグリ」http://beachmollu.exblog.jp/ の記事と岡本嘉六のwebサイトhttp://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/MIyazaki2010.htm を発見。これで構図は完全に固まり、また素人が口出しできるような話でないことにも納得した。
▽さらに、weblog「新小児科医のつぶやき」http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/ コメント欄を見て自信を得、あとはひたすらOIEコード、FAO "Preparation-"と家伝法&「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」の照合、またそれら相互の関係について言及した農水省文書&学術論文の検索。すべてweb上。
▽その後の驚きはTwitterアカウント@_Cow_Boy http://twitter.com/_Cow_Boyhttp://togetter.com/li/22413〕を発見したことくらい。考慮すべきことはほとんどすべて言及されている。これを最初に読めていたら、山内・村上・津田論文を手探りで読まずにすんだ。はるかに効率が良かったはず。もっともそれだと「ひむかのハマグリ」を発見した時の高揚は味わえなかったわけだけど。
▽あとは昨日の、農水省関係の意見交換会その他の議事録が、冗長だけれど参加者への説明が含まれていて、ほとんど講義録の状態になっていたことも嬉しい驚きだった。欠けているピース、語り落とされている部分、不足している情報(それはつまり具体的な運用面ということになろう)は、こういうものを丁寧に追っていくなかでようやく見えてくるのだろう、と感じた。
▽同じことは、農水省&宮崎県レポートの分析や、2000年口蹄疫の動衛研の総括報告、また開業獣医師、行政獣医師さんのtwitterweblogに分散した、現場で行われている具体的な作業を収集する必要についても言える。それらを通じてしか「本当に起きていること」は、見えない。
▽あ。「新小児科医のつぶやき」で紹介されていた、獣医による農水省プレスリリースの読み方は、衝撃だった(「疫学関連農場」とは何か?)。専門家が《読む》ことと、素人が読むことの決定的な落差。たとえば、法システムを素人が知ったつもりで読むことの危険くらいは知っていたけれど、当然、ここにも訓練された専門家と素人の致命的に大きな落差があった。まして、おそらくはその誤読がデマを生んだとなれば。
口蹄疫関連で少しだけわかった事|新小児科医のつぶやき http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20100518


▼さて、以上のような議論がじつのところ何を言っているか?
▽発生地の農家に対して、お前たちが大切に大切に育ててきた家畜は発症の有無に関わらず、殺せ。そして大量の死体は(感染拡大を防ぐために)そのままお前の農場に、埋めろ。異論は許さない。それが国のためだ。そう言ってる。
▽見も知らぬ他者に対してそのような酷薄な主張をしながら、そのことの痛み、自分が口にしていることの酷薄さを理解しているようには思えない。なんと言ったか、非常時の医者が患者を治療すべきか否かを判断する〔追記: トリアージ〕、あれと同様の場所に立ちながら、およそその決断を迫られる医師にもたらされるだろう苦悩からは、遠い。
▽私はいかなる権利のもとに、それを口にするのか。


▽やりとり。
QT @westriver_c: OIEコード8.5.45を読めば、現状であるFMD清浄性認定を果たすためには、種牛まで含めた疑似患畜の殺処分が条件、となるというのは明確な話。
QT @westriver_c: ただし、法的に書いてあるから再申請しても定義としての疑似患畜を残した事について、絶対に認められない、という話になるかどうかは、処置の仕方や説明の仕方によっても変わる可能性のある問題だと思ったりする。
QT @westriver_c: OIEから直接指摘され、それが絶対条件だという事になるのであれば、現状レベルまでの認定を復帰させるために種牛も処分するかどうか、というあたり〔が争点〕になると思う。ワクチン接種動物は全て殺処分予定だから、ワクチン接種FMD清浄地域の認定とはならないだろう。
QT @westriver_c: 要は、ワクチン非接種FMD清浄地域になるか、否か、という二者択一と。


口蹄疫。これ、その通りだと思います。絶対に認められないとは言えない。 →QT @westriver_c: //処置の仕方や説明の仕方によっても変わる可能性のある問題//
▽たぶん種牛6頭の移動に特例を出した時点では、これは交渉でなんとかいける、国際的に押し通せる、と日本政府は考えてたんじゃないかと。
▽後段は、少し疑問です。政府が気にしてるのはOIEをめぐる〈国際的信義〉の問題である可能性があります。 →QT @westriver_c: OIEから直接指摘され、それが絶対条件だという事になるのであれば//というあたりになると思う。ワクチン接種動物は全て殺処分予定だから、ワクチン接種FMD清浄地域の認定とはならない//
▽日本政府からOIE宛てに提出された報告書は全世界に公開されている。その「Epidemiology」「Control measures」部分 ▼OIE World Animal Health Information DB 20/04/2010- http://www.oie.int/wahis/public.php?page=single_report&pop=1&reportid=9155
▽その後の経過報告も含め、この2項目の記述はOIEコード8.5.7 と 8.5.8- への応答(日本は条件を満たす処置を実装済みです!)なので、最初の4月20日速報で即、すでに発生農場から10kmの移動制限を実施し、封じ込めエリアを設立したことを告知してます。 >@westriver_c
▽2010年4月20日付経過報告書に曰く; 「Movement restrictions within 10km around the affected farm have been implemented.(半径10Kmの移動制限が行われている)」 種牛6頭移動の特例は、日本のこの対外的な宣言を覆します。移動制限区域から外へ出そうとしたわけで。言ってることとやってることが違う。 >@westriver_c
▽そうすると、Follow-up report No.6〔5月26日付報告書〕に言う「All the vaccinated animals are clearly identified and to be destroyed.(全てのワクチン接種された動物は明確に特定されており、殺処分が行われる)」も信用できるの?って話が出てきかねない。だって日本って報告書に嘘書くじゃん。それはヤバい。>@westriver_c
▽論理的には、日本は現在OIEに虚偽の報告をしたことになっている。なので国際的な立場としては、二者択一以前の場所にありかねない。だから種牛49頭の処置には厳しかった。この上特例を重ねて殺処分政策(摘発淘汰政策)の実効性まで国際的に疑われたら、まずい。 →QT @westriver_c: 要は、ワクチン非接種FMD清浄地域になるか、否か、という二者択一と。
▽――たとえば。特例に特例を重ねた場合。 もし同様の特例を現在の朝鮮民主主義人民共和国が発した場合、日本人はその特例を本当に例外的な「特例」だと信じるだろうか? また、陸続きの隣国を持つ国家は、今回の日本の「特例」を国際的な先例として、隣国が同様のことを行うことを肯んじるだろうか?
▽しかも種牛6頭の移動方法と畜舎の状況が報道されたことで、防疫体制の不備は明らかになってしまっている。その情勢下で、昨日知らせてくださったFAO主席獣医官の発言はとても嬉しい話。日本政府が考えるのは、他の加盟国に認めてもらうためにその発言を政治的にどう利用するべきか、という感じなのかな、と。 >@westriver_c


▽そんなふうに考えてるわけだけど、こういう議論を発生地の方々が聞いたらどう思うだろう、というのが苦痛。確実に必要な議論なのだけど、でもそれをなんでお前が、webでちょっと調べたくらいの知識で、さも知ったふうな顔してやってるわけ? そう私なら思う。


QT @westriver_c: 「種牛の殺処分、慎重に」国連機関の主席獣医官 http://bit.ly/bK9rh5 (有料会員登録しないと読めないけど、ぐぐれば引用してるページは沢山ある)
日本経済新聞 2010年5月29日――「【ジュネーブ=藤田剛】国連食糧農業機関(FAO)の主席獣医官のファン・ルブロス氏〔FAO's Chief Veterinary Officer Juan Lubroth〕は〔2010年5月〕29日までに、日本経済新聞に対し、宮崎県で口蹄疫(こうていえき)に感染した可能性がある種牛が全頭殺処分されることに関して「慎重に対応すべきだ」と述べた。/ 理由について同氏は「殺処分は感染の初期段階では非常に効果的だが、すでに拡大した今は長期的な視野を持つ必要がある」と説明。「殺処分は(畜産)資源に大きな損失をもたらす」とも語った。/ FAOで家畜感染症問題を統括する同氏は、宮崎県の口蹄疫は「先進国ではこの約10年間で最悪」と指摘。2001年の英国での大流行に次ぐ規模で、「中国などで発生したウイルスとほぼ同一。いつ極東から世界各地に広がってもおかしくない」と警鐘を鳴らす。/ 日本が開始したワクチンの接種については「メリットとデメリットがある」としたうえで、「接種から効果が出るまで何日もかかるうえ、流行しているウイルスの型に合わないと十分な効き目はない」と指摘した。/ FAOは4月末の段階で口蹄疫の大流行について警告を出していた。日本政府の対応に関しては「評価は難しいが、感染が広がってしまったことは事実で、将来に備えて対応策を見直すことが重要」と語った。」
――発言内容の「事実」と、日経新聞記者の「解釈」を切り分けること。


〔追記: 吉川泰弘『獣医さん走る :家畜防疫の最前線』(幸書房, 2012年)は必読。黙って買え、と言える一冊。なお、第5章が口蹄疫に宛てられている。〕
Amazon.co.jp: 獣医さん走る―家畜防疫の最前線: 吉川 泰弘: 本 http://www.amazon.co.jp/dp/4782103654/


▼基礎資料リンク集:「口蹄疫」(2010年)|ilyaの日記 http://d.hatena.ne.jp/ilya/20100529/1275117290