ilyaのノート

いつかどこかでだれかのために。

TVドラマ「星降る夜に」と〈多様性〉──来たるべき大石静論のために

▽テレビドラマ『星降る夜に』。2023年1月17日、第1話オンエア。

→▼(公式サイト)星降る夜に|テレビ朝日 https://www.tv-asahi.co.jp/hoshifuru_yoruni/

→▼(配信Home) 星降る夜に | TVer https://tver.jp/series/srkd1yr0zu

 →▼#1 /人は恋で生まれ変わる──教えてくれたのは10歳下のあなたでした。| TVer https://tver.jp/episodes/epozba5yxf
 →▼#1【解説放送版】| TVer https://tver.jp/episodes/epx7vlo6oy

 →▼#2/恋は出会いから、加速へ──10歳差ピュアラブ、本格始動。| TVer https://tver.jp/episodes/epb71st0xp
 →▼#2【解説放送版】| TVer https://tver.jp/episodes/epuf55niwt

→▼星降る夜に (テレビドラマ) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E9%99%8D%E3%82%8B%E5%A4%9C%E3%81%AB_(%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E)

 

▼われらが大石静*1姐御の新作脚本「星降る夜に」episode 1 のTVer配信、たぶん?今日 2023/01/24 21:00 まで?であります!
→▼#1 /人は恋で生まれ変わる──教えてくれたのは10歳下のあなたでした。 | TVer https://tver.jp/episodes/epozba5yxf

▽意識が高いんだか低いんだかわからない、ぎりぎりを走り抜けるエンターテイナーの見事な技量。おしっこひっかぶるディーン・フジオカ*2。見逃さないでねー。

▽「ぎりぎりを走り抜ける」と書いたのは、「“炎上” ぎりぎりを〜」 というニュアンスであります。
以前に大石静脚本の蟹釜ジョー as「あのときキスしておけば」*3の第1回を見て私は 「失敗したら大炎上必至…。」と反応したのですが、その感覚。

大石静って「姐御」の風格があって「天然」くさいのです。いわゆる “ポリティカルコレクトネス” 的なものから縁遠い感じ。
プロデューサー「今こういうの描くのは差別になったり誤解を呼びかねないんですよ」、大石静「えーっ? なんでなんで? 意味わかんない」 的な会話をしてそう、と知友h氏曰く。

▽今回の「星降る夜に」第1話だったら、第1話冒頭部に置かれた(このシーン、反復の時間操作も巧い) ソロキャン女子にぐいぐい接近してくる男、さらに突然の──合意のない──行為とか、ヤバいわけです。現実にそういう犯罪だって起きてて被害者もいるのだから。(知友h氏談)

▽でも描いちゃう。大石静自身は絶対、「イケメンが突然私に!? これが萌えるのよー!」とか思って書いてる。(偏見断定)*4
ふつーに考えたら、「意識高い」系とはほど遠い、意識が低いも低い、感覚が古いも古い、時代遅れの “老害” 世代の典型です。

▽が、真に恐ろしいのは、時代遅れで「意識低い」感覚の持ち主っぽい大石静が作り上げる作品の「全体」が しかし、自分では “意識高い” つもりでいる作家たちが描きだす世界よりも、はるかに、ずっと、豊かで、かつ本質的に「意識高い」代物になりおおせてしまうこと、です。

▽女性が結婚して「(彼氏と) 同じ苗字になれてよかったー 幸せ〜!」 とか本当に嬉しそうに口走って社会的に “炎上” しない作品世界(「恋する母たち」(2021)*5)、視聴者が「あー よかったねえマリマリ」と受け取らざるをえないTVドラマが、成立してしまう。
▽変です、これは。


▽致命的に踏み外しそうな危うさがあるはずなのに、結果として、大石静は踏み外さない。
▽なぜ そんなことが可能なのか? 仮説はいくつかあるのだけれど、どうもまだ大石静MAGIC のタネがハッキリさせられない私であります。

▽(大石静が「徹底した個人主義者」だから ではないか? というのが現時点の最有力仮説です。この人は〈社会〉ではなく、〈個人〉に焦点していて、個人は社会よりも当然 優先される、と思っている。そして、それ以外の発想・思考がこの人には理解できない、のではないか。)

 

▼冒頭シーン、反響2例。
https://twitter.com/carryonapple/status/1615376450210918402
https://twitter.com/nezimaki49081/status/1615545994216865792

▽曰く……
・「年齢みたら71歳…/アップデート出来ないなら脚本書くの辞めてほしいわ」*6
・「制作陣、男が多いのかな?」*7
・「どう見ても犯罪じゃん ドラマにして喜んでるなんて脳みそ沸いてるな」*8
・「この一連のシーンがアリかナシかが分水嶺*9

▽まあ当然そうなりますよね現代…。


▽こういう厳しい反応がちゃんと見えるようになったのは良いことですが、それはさておき第1話。TV放送後一週間限定ではなく、ずっと無料配信なのかも!?
→▼#1 /人は恋で生まれ変わる──教えてくれたのは10歳下のあなたでした。 | TVer https://tver.jp/episodes/epozba5yxf

▽「アップデート出来ない」大石静には、しかし同時に何が「出来る」のか? なにゆえ TVドラマ「silent」*10は 1ラウンドKO喰らうことになったのか? 実見されたし。

▽もっとも、1R KO 試合終了! と思ったら、倒れた「silent」をこれでもかこれでもか!と滅多打ち、再起不能にする第2話でしたが…。
→▼#2/恋は出会いから、加速へ──10歳差ピュアラブ、本格始動。 | TVer https://tver.jp/episodes/epb71st0xp

▽TVドラマ素人の私でも、こんな深度の手話ドラマ、今までなかったろう…とわかる。

▽その前に「恋は出会いから、加速へ──10歳差ピュアラブ、本格始動。」ってなんだよ、いや、嘘は言ってないけど そういう話じゃなかっただろep.2!
って感じですが、この調子で最終回まで、たしかに「嘘」ではないが「本当」とも言えない皮をかぶり続ける気なのだろうか…。(第3話予告も変だよ…。)

 


▼気づいて愕然とした点一つ。
産婦人科院長のキャラクター造形。典型的/類型的/ステレオタイプな “オネエ” 口調&仕草を与えられて、まさに「アップデート出来ない」「脳みそ沸いてる」ゴミクズ脚本家の面目躍如ですが、でもこれ、不思議なことに嫌悪感、ないです。どう見たって不快感帯びるはずなのに。なぜ?


▽院長 “オネエ” 描写の不快感は、なぜ消えるのか?
▽たぶんこれ、他の登場人物の「キャラが濃い」から、です。われらが看護師 長井短*11御大はもちろん、看護師長とフォーエバーピンク息子、ドジっこ40代新米医師ディーン、さらに遺品整理会社ポラリスのリーゼント君に太った土建屋風オジサン。

ポラリス前のキッチンカー(コーヒー屋さん?)もそうですね。(この人物に至っては当事者(脳性麻痺神戸浩*12NHK「バリバラ」ナレーター)を起用している。)

▽ある意味では どれもこれもステレオタイプな一種の「記号」なわけです(そうは見えないように、上手く「脇役」として処理しているけれど)。
ただ、そういう「濃い」記号性の中に、院長の “オネエ” キャラは、確実に埋もれている。目立たない。

 

▼でも、じゃあなんでそんな演出が星降る夜に必要なの? という話で、問うべきは
《そうすることで、この作品は何を実現しているのか? それによって何が、この作品で可能になっているのか?》
です。

▽問いをそう立ててみるなら、答えはもう これ、噂に聞く
「“意識高い”〈多様性〉」
ってヤツじゃないの……か? ということになります。

▽「濃い」記号性を帯びた登場人物たちの中に 北村匠海演じる25歳の聾者・柊一星もまた埋もれていくわけです。
「耳が聞こえない」ことも「手話」で会話することも、“オネエ” キャラであること、80年代ヤンキー漫画リーゼントであること、脳性麻痺であること、PINK髪男子であること、四十路半ばの男性がまだ頼りない新米医師であること、etc. と等価で並列される。

▽「星降る夜に」の「異様」な点といえば、《耳の聞こえない青年と10歳年上女医のラブストーリー》という設定から人が想像するだろうお話から 絶妙にズレ続けていること、なのだけど(大石静ドラマはいつもそうだ)、
そのズレの起因は、「ろう者」「障害」「手話」といった要素を、〈断絶〉の記号として扱わないこと、にあります。

▽この世界には脳性麻痺者が営むキッチンカーが普通に営業していて、出産に立ち会う夫に「あんたなんかいらない!」と陣痛に襲われながら叫ぶ妊婦がいて、魅力的すぎる看護師 長井短がいて、『喪服でイエイ!』のVHSテープ*13に感激する若者たちがいて、なにかと髪を撫でつけてはダンスしているリーゼントの遺品整理士がいて、無意識に変てこな顔を見せている医師免許とりたての中年ディーン・フジオカがいて、
そして かれらと同じように、耳の聞こえない人間も会社で働き、手話やデバイスを使って会話しているのです。当たり前に。日常的に。

▽いや、そもそもこのドラマは「手話」を経由せずに聾者と “健常者” が(手話以外の手段で)コミュニケーションを成功させている瞬間を 鬱陶しいほど細かく、しつこく差し挟んでくるわけで、
「耳が聞こえない」ことも「脳性麻痺である」ことも特別なことではないし、それは〈断絶〉を意味しない。

 

▼要は、TVアニメ「アクションヒロイン チアフルーツ」(2017) であるわけです。
→▼アクションヒロイン チアフルーツ|TBSテレビ https://www.tbs.co.jp/anime/cfru/
→▼アクションヒロイン チアフルーツ - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%92%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%B3_%E3%83%81%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%84

▽「チアフル」は 「車椅子」で移動する青山元気を “ただの人” として、特別でない “ただの仲間” として、表現しようと試みていた。

▽「チアフル」では “意識高い” 挑戦だっただろう風景(哀しいかな 後継者は多分いない)を、「星降夜」ははるかにスマートに、そのこと自体に気づかないようなスタイル/方法──どれほどの人が、この作品が実現している風景の日本TVドラマ史における特異性に気づいているだろう?──で示す。

▽……なーんて「日本TVドラマ史における特異性」とかエラソー! に書いてますが、私はTVドラマなんてろくに見てないのでてへぺろ
(とはいえ、「星降る夜に」が現前させているような風景を、大石静と同じようにナチュラルに、また “意識低く” 描き出しえた作品が そうあるとは思えない。そして、アレだ! と思う作品がもしあったらぜひご教示を。)

 

*1:→▼大石静(おおいし しずか, 1951-) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%9F%B3%E9%9D%99

*2:→▼ディーン・フジオカ - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%82%AB ディーン・フジオカがひっくり返す妊婦の検尿カップから始まる「星降る夜に」は、吉高由里子の吐瀉物、トイレ掃除の迷信、AV「喪服でイエイ!」、ポラリス社長(水野美紀)の「すごいの出たわぁ」と “下ネタ” で構造化される。子どもを産むのも遺品を残すのもそうした “排泄” の一種である。

*3:→▼あのときキスしておけば - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%AE%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%81%91%E3%81%B0

*4:ただし、同シーンを観察すれば《北村匠海演じる「柊一星」に吉高由里子演じる「雪宮鈴」のほうから近づいていく》といった一種の「言い訳」、エクスキューズが挿入されていることは明らかで、この作品の制作陣が自分たちの作っているものに無自覚でないことはわかる。また、雪宮鈴の演技からも、柊一星の行動に対して反撥しながら、しかしなぜか受け入れてしまう自分への戸惑いを描写するために置かれたシーンであること自体は理解できる。(とはいえ現代の視聴者の嫌悪感を打ち消せる表現になっているわけでもないが。)

*5:→▼金曜ドラマ『恋する母たち』|TBSテレビ https://www.tbs.co.jp/koihaha_tbs/ →▼恋する母たち - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E6%AF%8D%E3%81%9F%E3%81%A1

*6:https://twitter.com/kaede_flat/status/1616135128190976000

*7:https://twitter.com/co55872800/status/1616069974573068288

*8:https://twitter.com/suomi17997526/status/1616069675816988672

*9:https://twitter.com/nezimaki49081/status/1615545994216865792

*10:→▼silent - フジテレビ https://www.fujitv.co.jp/silent/

*11:→▼長井短ながい みじか, 1993-) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E4%BA%95%E7%9F%AD 「星降る夜に」第1話放送に際しての本人コメントは次のもの; →https://twitter.com/popbelop/status/1615736800873701381

*12:→▼神戸浩(かんべ ひろし, 1963-) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E6%88%B8%E6%B5%A9

*13:作中に登場するVHSビデオ時代の「伝説のAV」。アイデアはわかるが、産婦人科医とAV(アダルトビデオ)は取り合わせが悪かろう…とh氏談。