ilyaのノート

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(プロメテウスの罠)2人の首相:5 「森の長城」を築こう:朝日新聞デジタル

▼(プロメテウスの罠)2人の首相:5 「森の長城」を築こう:朝日新聞デジタル http://digital.asahi.com/articles/DA3S11307640.html

2014年8月20日05時00分

◇No.1013

 2011年3月11日の東日本大震災からしばらくして、元首相の細川護熙(76)は旧知の植物生態学者に電話をかけた。

 「先生、ご苦労されているようですね。私にできることがあったら、ぜひとも協力させてください」

 電話の相手は、横浜国立大名誉教授の宮脇昭(みやわきあきら)(86)。11年4月、がれきを埋めて防潮林をつくる案を、政府の復興構想会議に提案した。だが、話が進まずに困っていた。

 宮脇は土地本来の多様な広葉樹林を育てる専門家で、細川の熊本県知事時代(1983〜91年)に「一村一森運動」を手がけた縁で、細川と知り合った。それ以来のつきあいで、92年の参院選に立候補を打診されて、固辞したこともある。

 その2人が、震災をきっかけに、約20年ぶりに結びついた。

 コンクリートの防潮堤はダメ。森の力で津波の衝撃をやわらげ、人びとの命を守る――。

 宮脇が描く大事業の思想は、「自然との共生と循環」を重んじる細川の胸に響いた。

 「先生、すばらしい構想ですが、やっぱりお金がないと実現はできません。財団をつくりましょう」

 がれきを埋めることには環境省が難色を示していたが、細川は、宮脇を連れて閣僚らと面会。首相の野田佳彦(57)にもかけ合った。

 12年7月、財団法人「瓦礫(がれき)を活(い)かす森の長城プロジェクト」が発足した。

 細川が理事長、宮脇が副理事長になった。王貞治石川さゆり市川猿之助といった著名人が応援団に名を連ねた。寄付を募って植樹を進める母体ができあがった。

 元参院議員の円より子(67)によると、細川は、コンクリートの防潮堤の建設計画を進める宮城県の方針に強く反発していた。

 「知事選にだれか出せないか」

 13年10月の宮城県知事選に向け、細川がそう漏らしたのを、円は覚えている。元首相の小泉純一郎(72)の次男で復興政務官の小泉進次郎(33)の名を口走っていたという。

 思いつきのままで終わったが、細川はこの時点で、改めて政治を強く意識するようになっていた。

 植樹は少しずつ進む。

 14年5月31日、宮城県岩沼市が震災がれきでつくった「千年希望の丘」で植樹祭があった。復興政務官の公務として、進次郎も来た。

 細川と同席して握手をかわし、それぞれ木を植えた。(前田直人)

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