ilyaのノート

いつかどこかでだれかのために。

Amazon.co.jpにおける一部ポルノ作品の排除〔2008年12月〕

▽2008年末、Amazon.co.jpは、一部アダルト系コンテンツを商品カタログから排除すること(取り扱い中止)を決定した。当時のクリップ。(同時期にDMM.comにおいても近似した措置がおこなわれている。)


 →▼日記〔2008年12月?日〕|伊駒一平 http://www.adachi.ne.jp/users/showaben/NewFiles/nikki.html
「2008/12/6/ 今週頭から、なぜかアマゾンで亜矢子完全版〔『キャスター亜矢子・完全版』二見書房刊、2008年11月下旬発売〕が買えません。/二見〔書房〕からアマゾンに問い合わせてもらってますが、まだダメなようです。/なんでじゃ? 先週は買えたのに。アマゾンだって在庫は抱えているのだろうから、売らなきゃ意味無いじゃん。/しかも発売から一週間と経っていないのに…。なんだかなぁ。/すいませんが、アマゾン以外でご購入下さいませ〜。/ ●二見書房の方にアマゾンから連絡がありました/↓」
「『Amazon.co.jpでは既に取り扱いを禁止している児童ポルノを想起させる商品に加え、以下に該当するようなアダルト商品の取り扱いを、今後中止することにいたします。また発見した場合は直ちにカタログの削除を行います。/ ・違法性、残虐、虐待をテーマにした商品、または著しく嫌悪感を催すような商品/ —「残虐表現」「ドラッグ」「鬼畜系」「食糞」「獣姦」等の残虐表現を含むもの/ また商品登録の際に下記の文言を「キーワード」に登録することを禁じます。/ —「レイプ」「強姦」「輪姦」「暴行」「乱暴」「凌辱」「虐待」「残虐」「食糞」「獣姦」「ドラッグ」「鬼畜」その他著しく残虐または嫌悪感を催すような表現/ 上記に該当する商品の登録や、キーワードの登録があった場合は商品を削除させていただき、また削除にも拘わらず同じ商品を再度登録されたり、禁止されたキーワードを再度登録されたりといった状況がある場合、今後の取引をお断りすることもございますので、予めご了承くださいませ。』 / …だってさ。ま、それなら仕方ないね。これからはアダルトはほとんど取り扱わなくなるんじゃね?」

▽──二重カギカッコ『』で囲んだ部分は、問い合わせを受けたAmazon.co.jpが二見書房に示した文書の転載と考えられる。*1


▽整理。
Amazon.co.jpのカタログにおいて以下の規制を適用し、『該当する商品の登録や、キーワードの登録があった場合は商品を削除』する。
(1)従来より取り扱いを停止している『児童ポルノを想起させる商品』に加え(たとえば「U15ジュニアアイドル」DVDなどの取り扱いをすでにAmazon.co.jpは中止している)、『違法性、残虐、虐待をテーマにした商品、または著しく嫌悪感を催すような商品(すなわち、「残虐表現」「ドラッグ」「鬼畜系」「食糞」「獣姦」等の残虐表現を含むもの)』の取り扱いを中止。
(2)商品紹介キーワードへの、『「レイプ」「強姦」「輪姦」「暴行」「乱暴」「凌辱」「虐待」「残虐」「食糞」「獣姦」「ドラッグ」「鬼畜」その他著しく残虐または嫌悪感を催すような表現』の登録を禁止。
(3)繰り返し違反があった場合、当該出版者との取引停止。『削除にも拘わらず同じ商品を再度登録されたり、禁止されたキーワードを再度登録されたりといった状況がある場合、今後の取引をお断りすることもございます』。


▽「「残虐表現」……等の残虐表現を含むもの」と定義が重複、混乱している。原因は不明。拙速のためか。(日本語以外の言語からの翻訳の可能性も検討しうる。)
▽次の記事(「調べてみたら既に大量削除済み」)が12月9日00:02付で公開されており、上掲の「日記」は〔2008年〕12月6日〜8日の間に「●二見書房の方にアマゾンから連絡がありました」以下が追補されたものと考えられる。

 →▼調べてみたら既に大量削除済み〔2008-12-09〕|banbooの日記 http://d.hatena.ne.jp/vbanboo/20081209/1228834930
「過去にISBNコードの一覧を作成した漫画家さんを中心にチェックしてみたら作品タイトルにNGワードが入っているとほぼ登録削除されている模様(もちろん調べた範囲の話)。しかも、獣姦漫画で有名な栗田勇午の作品はタイトルの自動検索では引っ掛からない内容なのに全消しでした。逆に内容で引っ掛かったことになります。いや現実的に考えて、タグに「獣姦」の文字が入っていたのかもしれません。そうでないと、伊駒氏の「キャスター亜矢子 完全版」が何故登録削除されたかは理解できません。過去にNGキーワードに該当した作品*1〔註*1「暴行」「凌辱」〕は既に削除されていましたが、そもそもこの完全版の元になった作品3冊はどれも登録されたままなのです。別の可能性として、帯に「羞恥」の文字が入っていたのが原因かも。というのは、コンビニ誌で非成年マーク付き漫画を出しているかわもり氏の作品で「極楽レディース 羞恥編(asin:4777805328)」だけ削除されているんです。データが少なすぎて結論は何も言えませんけど、過去の作品はタイトル文字だけで自動削除し(タグ登録してないから)、最近の作品はタグで削除している気がします。」
 →▼アマゾンがエロ漫画やエロゲへの倫理規制を強化している〔2008年12月09日〕|にゅーあきばどっとこむ http://www.new-akiba.com/archives/2008/12/post_12699.html

▽──上掲ブログで言及される『極楽レディース 羞恥編』(辰巳出版)のAmazon.co.jpカタログからの削除は、東京都青少年健全育成条例(いわゆる都条例)による不健全図書指定を受けてのものと考えるのが妥当。(削除の是非は措く。)
 →▼第576回東京都青少年健全育成審議会の答申〔2008年5月12日〕|東京都 https://web.archive.org/web/20080530185300/http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2008/05/40i5c100.htm
「2 不健全な図書類の指定/ 下記図書類は、東京都青少年の健全な育成に関する条例第8条第1項第1号の規定に基づく不健全な図書類として指定することが適当である。」 「種類: 雑誌/ 図書名等: NEOコミックス 極楽レディース [羞恥編] 平成20年5月25日発行/ 発行所等: 辰巳出版株式会社/ 指定理由: 著しく性的感情を刺激し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」



 →▼焚書を始めたAmazonにその見解を質したけど…〔2008-12-11〕|kentultra1の日記 http://d.hatena.ne.jp/kentultra1/20081211/1229018749
「日本でもネット販売で圧倒的な支配力を誇るAmazonが、日本向けサイトであるAmazon.co.jpにて上記のような通知を一部の出版社・ソフトウェアメーカーに送ったとのこと。」
「書店は表現物によって利益を上げる存在である。その書店、とくに大規模書店にとっての社会的責任と言えば、何を差し置いてもまず表現の自由を担保し、出版物を差別なく流通させることではないか?それなのに、いったいこれはどういう事なのか。」
「たしかに、ここに掲げられた行為の多くは、それを実際に行えば被害者が発生する犯罪行為である。そのため、それら実際の行為の実録作品を制約するというなら話は通じる。しかし、Amazon.co.jpがやっている事はそうではない。現実にAmazon.co.jpが制約しているのはフィクションであり空想であり、被害者もいなければ犯罪でもない、表現作品の規制である。Amazon.co.jpがやっている事は、表現の世界に公然と差別を持ち込んでそれを市場支配力によって社会に強制する事に他ならない。」
「さらに、これが社会貢献どころか、差別以外の何物でもない証拠が、上記に「食糞」「獣姦」のキーワードが並んでいるという事実だ。これらには被害者はいない。これらを禁ずる事は、本国アメリカのキリスト教的観念をベースとした、価値観の強制と性嗜好差別でしかない。「同性愛」がここに並んでいないのは、ひとえにゲイの活動家達の活躍の賜物に過ぎず、それがなければ当然のようにここに並んでいただろう。」
「なぜなら、Amazon.co.jpにおけるすべての商品はユーザが自ら選択して表示させるのであり*2、コンビニのエロ本のように、嫌悪感を抱く人の意に反して目に入る事は元々あり得ないからだ。いうなれば、完璧なゾーニングが既にされている訳だ。それなのに、いまさら禁ずるというのは、嫌悪感を抱く人達に取ってのメリットにはならない。第一、「健全」な商品だけで商売をしたいなら、アダルト商品の一切の取り扱いを止めればいいではないか。」 「〔註〕 *2:リコメンドもあるが自分の選択をベースとしており、かつアダルトは別枠」


▽──「上記のような通知を一部の出版社・ソフトウェアメーカーに送ったとのこと」とあるが、リンク先に引用されている伊駒一平日記から言いうるのは、自社商品の取り扱いについて問い合わせた「二見書房」にAmazon.co.jpから示された文書がある(らしい)という点まで。「ソフトウェアメーカーに送った」との記述の根拠、不詳。
▽「現実にAmazon.co.jpが制約しているのはフィクションであり空想であり、被害者もいなければ犯罪でもない、表現作品」と上掲ブログは言う。たしかに取り扱い中止の規制対象はフィクション(というより“非・実写作品”というべきか?)にも及んでいる。だが、Amazon.co.jpが特にそれ〔とりわけフィクションを規制すること〕を意図したかどうかは、不明。 〔※この記述、誤り。「フィクション」を限定的意味に捉えている。実写であろうとフィクションであることに代わりはない(「実録」=ドキュメンタリーを除く)。もちろんいわゆる「バッキー事件」*2に見るように、その境界はけっして明瞭ではないが。〕
▽このブログ記事に言われる「アメリカのキリスト教的観念」を規制の背景に想定してよいものか、現段階では判断しかねる。(ただし、先に指摘したように、規制タイトルを定義する文章の混乱には、外国語からの翻訳の可能性を感じないではない。)
Amazon.co.jpの現状のユーザインタフェースで「完璧なゾーニング」(区分陳列)がなされているとは、到底言えない。あれが「完璧なゾーニング」だというなら、ゾーニングなど誰にでもできる。たしかに原理的には「Amazon.co.jpにおけるすべての商品はユーザが自ら選択して表示させる」、「意に反して目に入る事は元々あり得ない」と言えるが、無理がある。(ただし、未成年への「販売禁止」の観点からは、日本国内でのクレジットカード支払いの場合、適切な年齢認証がおこなわれていると言える。)
▽一方、Amazonが嫌悪感を言挙げするなら、Amazonはそもそもポルノグラフィ全般を取り扱い中止とすべきだというのは、正しい。(しかし、もし仮に、「はい、わかりました。おっしゃるとおりにいたします」とAmazon.co.jpが取り扱いをすべて中止したらどうするのだろうか? 消費者は、生産者は、現代社会の住民たるわれわれは、それを望むだろうか?)
市場原理主義、あるいは“ネオリベ”的な観点からすれば、Amazonの行動に非難さるべきゆえんはあるか? 「大規模書店にとっての社会的責任」という市場外的要素。また、「大規模」とみなされる基準はいかなるものか。「社会的責任」の内実は何か。インフラストラクチャーとしての書店。出版物幻想。また、一書店(一私企業)が特定ジャンルの本(商品)を扱わないことがなぜ非難されうるのか。取り扱いを中止することが問題なのか(では、最初から取り扱っていなかったのなら問題ないのか)。あるいは逆に、特定ジャンルの本しか出版しない版元は許されるのか(ポルノグラフィーを出版しない版元が許されるのはなぜか)。「表現の自由」とは何か。
▽〔──追補。ex.「嫌悪感」と法規制について。cf. マーサ・ヌスバウム『感情と法 :現代アメリカ社会の政治的リベラリズム慶應義塾大学出版会.〕


 →▼焚書を始めたAmazonにその見解を質したけど…〔2008-12-11〕|kentultra1の日記 http://d.hatena.ne.jp/kentultra1/20081211/1229018749
Amazon.co.jp カスタマーサービスからの回答――「(追記)回答が来た」 「Amazon.co.jpにお問い合わせいただき、ありがとうございます。/ 現在当サイトでは、取扱商品の見直しを進めております。今回お問い合わせいただいた件につきましては、サイト上で検索いただけない場合に、取り扱い見直しの対象商品となっていることが考えられます。/ 現時点では見直し段階のため、お客様よりいただいたお問い合わせについて、具体的な返答は控えさせていただきますが、このようなご意見をいただいたことは担当部署に報告させていただきます。/ Amazon.co.jpにお問い合わせいただき、ありがとうございました。」
▽──顧客への個別応答を避けること。危機管理。影響力。ヘタに喋って話題を呼ぶよりは、沈黙するほうが、企業にとっては正解だろう。

▽特集フェア「Amazon.co.jpで買えない本」。書店店頭で展開するのはどうか。


▽関連するのかしないのか。
 →▼児童ポルノ、「閲覧」だけでも犯罪に--世界会議で提言〔2008/12/01〕|ニュース - CNET Japan http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20384501,00.htm
Emi KAMINO, 2008/12/01 17:38 「ブラジルのリオデジャネイロで開催されていた「第3回子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」で、ネット上の児童ポルノ閲覧を罰則対象とする「リオ協定」が採択された。」
 →▼児童ポルノ規制・リオ宣言発表。〔2008-11-30〕|黙然日記 http://d.hatena.ne.jp/pr3/20081130/1228057206
「日本時間で〔2008年11月〕29日に、ブラジル・リオデジャネイロで開かれていた第3回児童の性的搾取に反対する世界会議リオデジャネイロ会議)が、リオデジャネイロ宣言を出して閉幕しました。」
 →▼III CONGRESSO MUNDIAL DE ENFRENTAMENTO DA EXPLORACAO SEXUAL DE CRIANCAS E ADOLESCENTES http://www.iiicongressomundial.net/


▽関連:
 →▼DMM.comにおける取り扱い中止ジャンル(2008年末)〔2009.1〕|ilyaの日記 http://d.hatena.ne.jp/ilya/20090203/1233674057
 →▼誘導記事、あるいはプロパガンダの実践〔2009.1〕|ilyaの日記 http://d.hatena.ne.jp/ilya/20090321/1237616690
 →▼Amazon でジュニアアイドルのDVD(の一部)が取り扱い中止になっている件〔2007-09-01〕|児童小銃 http://d.hatena.ne.jp/rna/20070901/p1


▽〔※追補。2012年〕
 →▼通販大手Amazonがロリータ専門コミック誌を排除!? 販売元も困惑〔2012年3月〕|メンズサイゾー http://www.menscyzo.com/2012/03/post_3725.html
 →▼Smashwordsがアダルト向け電子書籍を排除開始、背景に大手クレジットカード会社の手数料率か〔2012年02月27日〕|電子書籍情報が満載! eBook USER http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1202/27/news064.html
 →▼「ボーイズラブ許さん」米Amazonが日本製コミックの翻訳出版社Digital Manga社のアカウントをまるごと停止〔2012-03-16〕|hon.jp DayWatch http://hon.jp/news/1.0/0/3175/
 →▼Important Announcement: DMP’s Kindle Publishing Suspended|Digital Manga Inc. Blog http://www.digitalmanga.com/blog/2356/important-announcement-dmps-kindle-publishing-suspended
 →▼TGIF: Kindle Account Restored|Digital Manga Inc. Blog http://www.digitalmanga.com/blog/2359/tgif-kindle-account-restored
 →▼ヴィレッジヴァンガード、「エロ系」の本やグッズを「一斉撤去」〔2011.02.09〕|ガジェット通信 http://getnews.jp/archives/97945
 →▼「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガード、アダルト系商品撤去の真相(メンズサイゾー)〔2011年02月11日〕|livedoor ニュース http://news.livedoor.com/article/detail/5336553/

*1:このAmazonから二見書房への「連絡」がメールでなされたのかFAXでなされたのか、あるいは文書の郵送でなされたのか、不詳。メールであれば転送であろうから、表現はほぼAmazonの発出文書のままと考えられる。

*2:→▼バッキー事件 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E4%BA%8B%E4%BB%B6 →▼バッキー事件の概要!被害者や栗山龍の生い立ちや現在|風化してはいけない事件 | 女性がキラキラ輝くために役立つ情報メディア https://kirari-media.net/posts/205