ilyaのノート

いつかどこかでだれかのために。

小田洋美,北原みのり,早乙女智子,宗像道子『ガールズセックス』共同通信社〔2007.10ノート〕

▼小田洋美、北原みのり、早乙女智子、宗像道子『ガールズセックス』共同通信社 ★★
▽2003年10月10日初版。共同通信社刊。 小田洋美、保健体育科教師、1961年生。北原みのり、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」運営、1970年生。早乙女智子、産婦人科医師、1961年生。宗像道子、共同通信社記者、1952年生。


▽好著。よい本。4名の女性による思い切りのいい対談集。とくに男性に読まれるべき一冊。
▽女性の自己決定を尊重するスタイルの四人だが、ピル使用をめぐっての北原と早乙女の対立(p.108ff)、十代の出産をめぐっての(自己決定権を前提しつつの)口ごもり(p.152f)など、スリリングな場面もあって好感。参加者それぞれの肩書きにもよるのだろうが(各自がそれぞれの「現場」を持っている)、言葉が生きている。「思想的」でないと言ってもいいかもしれぬ。読みようによっては誤解されうるゆらぎをもつ言葉がそこここに放りだされていて、凝り固まったイデオロギーに回収されていない。
▽だが他方、「日本」が外国に対して遅れている、この国はこの程度だ、といった口振りがところどころで不用意にあらわれる点には、いささかナイーブな印象を受ける。


▽純潔主義者は、こういうテクストをどう読むか。
▽女性の自己決定権、身体の所有権をどう考えるか。反論の余地と、リプロダクトヘルス。男性との差別。生-権力的な〈国家〉の視線。人口と“民族”の再生産装置としての女性の身体、その管理。「産めよ殖やせよ」。
▽座談参加者4名の年齢差、職業経歴の差が、思考フレームにいかなる影響を及ぼしているか。
▽早乙女智子、岩室紳也『LOVE・ラブ・えっち』(保健同人社、2001年)。


▼online magazine "Sexual Science"
http://www.medical-tribune.co.jp/ss/index.html
http://www.medical-tribune.co.jp/ss/2002-11/ss0211_1.htm
北村 現実には,10代の人工妊娠中絶は,我々の努力も空しく……いや,ぼくは中絶がいけないと思っているんではないんです。中絶は女性の自立の証だという捉え方だって,できないわけではありません。しかし,望まない妊娠をしてほしくない。これと性感染症の予防は,ぼくの性教育講演の基本です。/ ぼくは産婦人科医ですから,「性教育」というより「性教育講演」と言いますが,そのために知恵を絞って闘い続けてきたにも関わらず,一向に中絶の減少傾向は見られない。性感染症は拡大している。この現実を見ながら空しさを感じている。」、「北村 でも,文部省性教育は失敗だったと言うほど,文部省版性教育は若者たちに影響を及ぼしているんでしょうか?」「村瀬 そもそも,ほとんど何もしていないんですよね。」
http://www.medical-tribune.co.jp/ss/2006-11/ss0611-3.htm
「この24条に関して,自民党議員の評判はすこぶる悪い。「男女平等で国民が利己的になった」「女性が利己的になって少子化を招いた」など。要するに24条のために,行きすぎた個人主義の風潮が生まれたというのだ。」
http://www.medical-tribune.co.jp/ss/2006-10/ss0610-1.htm
「山谷〔えり子〕さんは,一部の性教育が子どもにはフリーセックス推奨と受け取られかねないとして,事例をあげながら非難した。その一方で,「性教育をするなというのではなく,子どもの発達段階を無視し,親の理解を得られない性教育をやめてほしいと言ってるだけ」とも述べた。」


▼抜萃ノート:
▽「女性の体は自分のものだという概念が成り立っていないから、見てない、触ってない、(名前を)知らないんです。自分のものだから、自分がどう思うか、どう感じるかが大切なのに、「彼が感じないのは私の体が悪いんでしょうか」というような思い込みが、若い女の子にもあるんです。「自分の体は自分のもの」という、非常にシンプルな、当たり前の個人の権利が認識されていないことが、女性外性器を隠したがる文化の象徴だと思う。中学生向けのパンフレットに、女性の外性器を載せられないと言い張った先生が、「これは文化ですから」とおっしゃって……。」(p.25f:早乙女)。
▽「バイブを買ってくれた女性の母親から、電話がかかってくることがあるの。「うちの娘は、まだこんなものを必要とする年ではありません」と。女の子は「守る」という口実で割と管理しやすい。多分、息子のエロ本を送り返したり、会社に抗議の電話をかけたりはしないと思うんだけど。」(p.37:北原)。「そう、〔完璧なボディじゃないと〕欠けた感じ。女のボディイメージは、「これでもか、これでもか」っていうぐらいに、与えられているので、先入観や情報に惑わされないほうがおかしい。惑わされて当然な社会だと思います。」(p.40:北原)。「あと、ボディイメージということで言えば、体は見た目だけではなくて、使うためにあるのに、どうしてそこに意識が向かないのかなぁと思います。自分が何をしたいのか、どういう生活がしたいのかで、体形は当然変わってくるはずだし、筋肉もりもりの女の子がいたっていいわけですよ。視覚的なことだけに入りすぎているような気がします。」(p.47:早乙女)。
▽「性的に求められることで、肯定感を味わうのは、女の方が男より多いでしょうね。だから、(女性は)すごく精神的なものと結び付いたセックスを方向づけられているし、それが〔男女中高生の性交渉の〕体験率〔の差〕にも出ているような気がします。」(p.83、北原)。「男だからリードしてくれる、経験があるから分かってるって思いがち。女の子もそれに身を任せちゃう。女の子に、もっと「知ってるんだ!」っていう自信をつけさせてあげなきゃいけないし、相手を信じちゃいけない。」(p.90、北原)。「それから、セックスで失敗すると即嫌われるという思い込みが強いような気がします。」(p.91、早乙女)、「あと同年代の子とするときに、女の子の中に「男の子は我慢できないはず」とか、気遣いするところがすごくあると思う。」(同、北原)、「させてあげないとかわいそうとか。」(同、早乙女)、「そう思ってるとしたら、絶対に間違い。それはあなたが考えることじゃなくて、彼自身がコントロールすべきこと。自分のためにしたいと思わなければ、セックスしてもつまんないんじゃないの?」(同、北原)。「ジェンダー的なことだと思うんですが、大きくなっていくにつれて、視線が周りから変わってくるのを女の子は体験します。五年生とか四年生ぐらいで、いきなり知らない男の人にお尻を触られたりして、自分が女だってことを思い知らされるんです。自分の体にどう向き合っていいのかも分からない時代。すごく慎重に取り扱う必要がありますよ。」(p.33、北原)。


▽「多産の人が減った今は、女が月経に向き合う日数、数倍に増えてますよね。」(p.68、北原)。「それと、月経は不浄なものとか、嫌なものっていうイメージがすごく強いじゃないですか、日本って。ポジティブにとらえられないから、月経が来たというと、「あぁ、かわいそうにね」「もう来ちゃったの?」って、平気で言う親もいるらしいんですよ。」(p.54、小田)、「あと、やたらと出産と結びつける人、いませんか? 「これで赤ちゃんが産める」とか。」(同、宗像)。「もう一歩間違えると、家庭内でセクハラまがいの発言なんて、ない方がおかしいぐらいにあると思いますよ。」(p.56、早乙女)。


▽「性教育をすると、性に対して慎重というか、賢く選択するので、そういう〔問題化して大騒ぎになるような〕行動はあまり起こさないんです。」「それは明らかなようですね。」「それはデータが出ています。」(p.80、小田)。「セックスは性交ということになるんですが、〔教科書の〕どこにも入っていないので、セックスして妊娠するというのが結び付かないんです。高校生用でもまだ掲載されていない教科書がある。」(p.86、小田)。「〔状況に流されずにコンドームをつけるとか〕そんなことぐらいちゃんとやってほしい。妊娠して産んだら、子育てに平均二千万かかるのをその場で引き受けられるのか。そういう話をしているわけですよ。だから、流される一歩手前で考えてほしい。」(p.93、早乙女)。「〔初めてセックスしたぐらいの子たちには性感染症の防ぎ方は〕分からない。教育現場でもあまり教えていないですし、かといってパンフレットもあまり出ていない。十代が行くような塾とかに置けば取るんでしょうけど保健所にはまず行いかないもの。」(p.170、小田)。
▽「性教育ではそれ〔体の話とセックスの快楽の話〕を一緒にしちゃうから分からなくなるのよね。教える方が恥ずかしがって。」(p.23、早乙女)。「性を倫理的に語らなければならないという思いが大人側にありますよね。〔中略〕医者と教師は特に倫理的に語ってはいけないと思っています。(医師には)「あなたの体はこういう状況ですよ」っていう知識をちゃんと教えてほしいと思うし、客のニーズに合ったことを言ってほしい。」(p.23、北原)。「「〔避妊に〕失敗したかも」という女性の不安を取るとか、体調不良を改善するような医療が本当に貧しくて……。「妊娠したかもしれない」と思ってから、次の月経が来る二週間って本当に……。」(p.119、早乙女)。


▽「あとは、女性の体にしか起こらないことなのに、それに関して女性が自分で決定できないというのが……(中絶には)今のところ、パートナーの同意がいることになっているんです。この間受けた相談では、ドメスティックバイオレンスがあって、もうこの人とはとてもやっていけない、だけど妊娠しているという女性が、パートナーの同意を得ようとして話をしたら、蹴りを入れられたんですよ。「堕ろすなんてとんでもない」と言って。」、「そんな状態で産めるわけがないのに、病院では「同意がなければ堕ろせません」と言われる。」(p.131f、早乙女)。
▽「そもそも、どこからどこまでが中絶なんですか? 避妊をするとか、しないとか……卵の状態?」(p.131、北原)、「避妊という手段を取った時点で一緒でしょ。広い意味では、中絶も避妊の一種だと考えていいと思います。IDUも受精卵を着床させないわけだし。」(同、早乙女)、「中絶と避妊の間にすごく距離があるような気がするけど、そうか、一緒か!!」(同、北原)。「中絶したんですが、後ろめたさはやっぱりありましたよ。自分に(中絶する)権利があるとか、〔病院の〕お客だという意識が持てませんでしたね。でも、(中絶をして)実際に私が思ったことを正直に言えば、「こんな清潔な病院で中絶できる時代でよかった」「麻酔から覚めた後にケーキをくれて、親切な看護師さんに出会えてよかった」とか、ハッピーなことばかりだったんです。それまでつわりが苦しくて、気持ちが悪かった。中絶しても、すぐにはつわりはなくならないんですね。医師に聞くと、「すぐには消えませんよ」って言われた。中絶直後、女がさっぱりしているイメージがありましたが、あれ、嘘ですね。しばらくはホルモンバランス崩れて心も乱れるし、つわりもおさまらない。実際にした中絶と、それまで持っていた中絶のイメージがあまりに違うので、驚きました。」(p.129f、北原)。
▽「今の男の子は、中絶に対しての恐怖がすごくあると思うんですよ。だから、子どもができたときに、「産むな」「困るんだ」とは、あからさまには言わない。中絶したら女は傷つく、女は産みたいんだろうと思わせる情報ばかりだから、「産む」という選択を選んだ方が「男らしい」と。」(p.134、北原)、「今は産まないことの方が決断が重いので、妊娠した十代は大変だ。精神的に楽だから堕ろすんじゃなくて、産む時代ですよ。」(同、北原)。「中絶って私の母世代とか、あまり悲しいとかつらいって思ってないんじゃないかと思うんです。」(p.139、北原)、「だから、うちの母や叔母の世代では、出産約百六〇万件で中絶が約百万件だったから、五人に二人ぐらいは(中絶)してる」(p.140、早乙女)。


▽「十代で子どもを産む子たちは、妊娠をきっかけにして相手と結婚しちゃうんですか?」(北原)、「追跡データによると、ほとんど別れています。産んだ後に別れるか、もしくは産むときにはもう別れているかという感じで。一緒にずっといくのはまれで、一〇%にいくかいかないかぐらいだと思います。あとは、親の援助で何とか育ててるって感じです。」(p.148、小田)。「さっき、小田先生がおっしゃっていたけど、出産する権利は、十代には与えられていませんね、確かに。それはでも、二十代でも三十代でも、結婚していない女にとっては同じ。男の名前がないと、子どもを産むのは大変です。そんな社会で、十代の妊娠出産というのは、どうなんでしょうね。」(p.152、北原)。


▽「〔ピルを服用するようになって〕で、本当に変なんだけど、夜道を歩いていて殺されることはあっても(レイプで)妊娠することはないと思ったときに、すごい解放感があったんです。妊娠だけはしないんだという、すごーく不思議な解放感。」(p.103、早乙女)
▽「男がうつだと、働きすぎだと言われるのに、女の場合はホルモンのせいだと言われしまう。」(p.63、北原)。「いつもそういうことで腹が立つのは、男性って絶対、自分に起こり得ないことを知ってるんですよ。「あなたがその身になってごらんなさい」って言いたいけど、あり得ないから、ぬくぬくとしている。そう思った瞬間、本当に嫌ですね。」(p.135、早乙女)
▽「ちなみに、私がお会いした一番年輩の方は七十代の方でしたが、「男、面倒くさいのよね。昔は〔アダルトグッズなど〕こういうのなかった。今の人がうらやましい」と。」(p.20、北原)。