ilyaのノート

いつかどこかでだれかのために。

google先生の罠、あるいは「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」〔2008.5〕

▽いわゆる「児童ポルノ禁止法」の現行条文について調べる機会あり。google検索の危うさを実感する。
▽「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」をgoogle検索すると、法律の条文として次の2件がトップに出力される。

▼【A】児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html
▼【B】児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
http://www.moj.go.jp/KEIJI/H01.html

▽いずれも政府管轄のwebサイトだが、2つのページの条文には異同がある。なぜか?
▽結論からいえば、前者【A】が現行法である(平成11年5月26日法律第52号、最終改正:平成16年6月18日法律第106号、第159回国会)。総務省の「法令データ提供システム」に登録されている。ただし、附則部分に「抄」とあり、条文の一部が省略されている。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi
▽他方、後者【B】は「法務省ホームページ」下に存在する、平成16年(2004年)に法改正される以前の旧法(全文)(平成11年5月26日法律第52号、第145回国会)。
http://www.moj.go.jp/
▽なお、改正法である「平成16年 法律第106号」の正式名称は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」。


法務省ホームページ下にある過去の条文【B】には、公布年月日等が記されておらず、素人には現行法か否かの判断が難しい。(むしろ法務省ページ下にあるため、信頼性が高い現行法条文であるかに見える。)
▽なお、法務省トップページ左カラムのメニューから「所管法令→法律→法律名」とたどっていくと、法令データ提供システムの条文【A】にリンクしており、過去の条文【B】にはたどりつかない。ただし、法務省トップページの検索窓から検索すると、上のページ【B】がトップにヒットし、情報として「日付: Tue, 26 Apr 2005 13:40:48 +0900」と表示される。改正法は平成16年(2004年)に成立しており、2005年の日付のテキストに反映されていない理由は不詳。
児童ポルノ法改変について何か言うなら、法律全文くらい読んでおきなさいと語られる時、その論者のいう「現行法」とは、本当に【A】を指しているだろうか?
▼マンガ論争勃発のサイト: 「児童ポルノ」の問題を語るための10のチェック
http://ameblo.jp/mangaronsoh/entry-10080545214.html


メディアリテラシー。法律を読むための前提(法律用語の理解。また、そもそも法律はどこで読めるのか?)。インターネットで手に入るモノと手に入らないモノ。典型的なwebの「平等」性の陥穽というべきか。権威の不在(あるいは逆に、文書【B】が法務省URI下に存在することがここでは「権威」として機能し、誤解を生じうる)。
▽この事例についていえば、【A】【B】どちらが現行法なのか(あるいはこの他に現行法が存在するのか?)、最終的には法務省に問い合わせて確認した。法務省への問い合わせFAX番号・電話番号などは、法務省トップページ右カラム下方、「ご意見・ご感想など」というメニュー内に示されている(わかりにくい!)。
▽ノート: 法務省に電話で問い合わせたところ、刑事局広報課に転送された。質問してみるに、はじめは「法務省のホームページのものはつねに最新の法律です」との回答。そこで、【A】【B】の条文に異同があり、「ビデオテープ」が「電磁的記録に係る記録媒体」に変わっている点など鑑みるに、法令データ提供システムの条文【A】のほうが法務省ページの条文より新しいものではないか、と重ねて問うと、確認するとのこと。結果は上記のとおり。法務省のトップページメニューの「所管法令」からたどると文書【A】にたどりつき、【B】は表示されないことも教示あり(担当者は、旧条文【B】がgoogleでヒットすること、また法務省ページの検索窓から検索するとヒットすることには気づいていなかった)。


▽平成16年(2004年)改正による条文変更。
▽たとえば「第二条 3」を比較すると、改正前【B】は「この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。」とシンプルに定義されていたものが、改正後【A】は、「この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他 人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。」と変更されている。デジタルデータを規制対象とするために苦労していることがうかがえるが、法律的文章の素人には過剰にまわりくどく見える。
▽〔2004年の改正後も、「視覚により認識することができる方法」に基づかない媒体(たとえば文字媒体や音声など?)がこの法律の対象とされないことは変わらない。もっとも、文字媒体も(「写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」ではないとしても)「視覚により認識できる方法により描写したもの」の一種ではなかろうか? また、「ビデオテープ」は「電子計算機による情報処理の用に供されるもの」と言えるのだろうか。〕
▽また、第七条は、(児童ポルノ頒布等)から(児童ポルノ提供等)に変更され、条項数も増えている(3項→6項)。


▼RONの六法全書 on LINE
http://www.ron.gr.jp/law/law/jidou_ba.htm
▽こちらは省略のない現行法の条文テクスト全文。ただし、個人の作成しているwebサイトであり、誤植等の可能性はある。対照すると、「法令データ提供システム」条文の改正附則(平成16年 法律第106号)は、第4条を省略していることがわかる。
▽公布日、施行日については、次の通り記述されている。1999年法: 公布:平成11年5月26日法律第52号、施行:平成11年11月1日。2004年改正法: 改正:平成16年6月18日法律第106号、施行:平成16年7月8日(附則第1条ただし書、未確認)。
日本ユニセフ協会ユニセフについて アドボカシー活動
http://www.unicef.or.jp/about_unicef/advocacy/about_ad_law.html#02
▽財団法人日本ユニセフ協会のwebサイトにも条文が掲載されているが、これはおそらく「法令データ提供システム」からの引き写し(附則の省略部分が同じである)。


▽法律の国会審議過程等については、国会図書館の「日本法令索引」から検索し、「国会会議録検索システム」の議事録を参照することができる。
日本法令索引
http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/
日本法令索引 会議録一覧: 平成11年 法律第52号
http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewShingi.do?i=%3A%3AAAAG2mAADAAAKnQAAU
日本法令索引 会議録一覧: 平成16年 法律第106号
http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewShingi.do?i=%3A%3AAAAG2mAADAAAKojAAE


▽国会に提出された際の「法律案」のテキスト。
参議院法制局: 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案
http://houseikyoku.sangiin.go.jp/sanhouichiran/sanhoudata/145/s14514.htm
衆議院: 第159回国会 43 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g15901043.htm


▽この法律が参照された判例については、とりあえず裁判所ホームページの「判例検索システム」で検索できる。
▼裁判所: 判例検索システム
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010?action_id=first&hanreiSrchKbn=01


▽法律の英訳、対訳が内閣官房サイトでPDF提供されている。
内閣官房: 法令翻訳データ (標準対訳辞書対応)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hourei/data2.html
▽「児童ポルノ処罰法」の英題は「Act on Punishment of Activities Relating to Child Prostitution and Child Pornography, and the Protection of Children」。但し書きに、「なお、これらの翻訳は公定訳ではありません。法的効力を有するのは日本語の法令自体であり、翻訳はあくまでその理解を助けるための参考資料です」とある。
▽法令英訳のテキストファイル及び「標準対訳辞書Standard Bilingual Dictionary」データは、名古屋大学の外山勝彦グループから提供されている。
日本法令英訳プロジェクト :名古屋大学大学院情報科学研究科情報システム学専攻外山グループ
http://www.kl.i.is.nagoya-u.ac.jp/told/
▼標準・法令用語対訳辞書
http://kanz.jp/dictionary/
▽「当サイトは、内閣官房提供の標準対訳辞書をもとに、独自に検索サービスを提供しているサイトです。内閣官房・司法制度改革推進室や名古屋大学大学院情報科学研究科情報システム学専攻外山グループ (日本法令英訳プロジェクト)とは一切関係ありません。」